にくまんの駄文

駄人による駄人のための駄文

はじまり

 その日、私はいつものように職場を後にしました。五月でしたが、もうすでに大分暗くなっておりました。昼間降っていた雨はやんでおりましたが、どこかこうじめっとした嫌な空気でして、なんといいましょうか、五月らしくない夜でした。道は少々ぬかるんでおりましたが、さして気になるほどではありませんでした。私はのそのそと駅まで歩こうと歩みを進めましたが、ふと途中で気まぐれを起こし、駅とは逆方向へ行くことにしました。その日は金曜でしたので、なんとなく自由な気分だったのでしょう。あるいはせっかくの週末にまっすぐに家へ帰るのが、もったいなくなってしまったのかもしれません。事実、街には私以外にもたくさんの人があちらへこちらへ歩いておりました。私も彼らの波に混ざり、当てもなく街を歩き始めたのです。
 とはいっても、さて、どこへ行ったものか、私は困ってしまいました。普段から外で食事はおろか酒すら飲まない私は、所謂行きつけの店というようなものがありませんでした。ただ、空腹であったのは事実でありましたので、できればどこかの食道で食事にありつき、なおかつ、麦酒か何かを少し飲めれば愉快だなと想像しましたが、いかんせん当てがありませんので、ひとまず邪魔にならない路地で煙草を飲むことにしました。私がゆっくりと煙草を飲みながら何を見るともなく街を歩く人々を眺めておりますと、ふと妙なことに気づきました。